女川のほとりで

当時の逢妻女川は、決して子ども達の遊び場だっただけではありません。
川の流れを利用して水車で米搗きをしていた。
地場産業の養蚕の道具や、農耕の主力であった牛馬、農機具、さらに赤ちゃんのおむつま でも洗っていた。
農繁期には汚れた野良着の泥を落とし、堤防の草の上に干し、乾かして再び作業にとりか かっていた。
そしてなにより大事な灌漑用水でもあった。
川の両岸には高からず低からずの松の木や栃の木が自然生えしていて、護岸の役目を成し ていたが、秋の趣の一つ、刈り取った稲を干すハザ掛け場にもなっていた……
これらの懐かしい光景は宮口・ 逢妻の村の人々にとって女川 は日常欠かすことのできない 生活の場であったと思わせます。
さらに四季折々見かけられた 次のような習わしは、人の心に うるおいをもたらし、彩りをも 添えています。
*七夕さま 七月七日に願い ごとを書いた色とりどりの 短冊を結び付けた笹竹を、 星に向かって飾り、翌日そ の願いがかなうように祈り をこめて女川に流します。
*盆の後日 お盆に年一度の 里帰りをされるご先祖さま をお迎えします。
その時お 供えした果物やだんご、茄 子のお馬などをコモに包み、心づくしの土産も添えて、再びお帰りになるご先祖さま を見送りながら女川に流します。
*秋祭りのころ 何本もの障子をリヤカーで女川まで運び、きれいに洗って真白な障子 紙に張り替え、収穫を祝う秋祭りを心待ちにします。
*初夏の夕べ ホーホーホタル来いと歌いながら、五月闇に乱舞する蛍を追いかけた橋の 上。
ほたる草の入った竹かごの蛍は、格好の提灯となり、足元を照らし帰りの道案内を してくれます。
そして夜の更るころは枕元や蚊帳の隅にぶら下げられて、子供たちの夢 案内もしてくれるのです。

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